~ いい意味で謙虚さを忘れた怒涛のスポーティ・クーペ ~

Lexus RCは、現在、Lexusで唯一のクーペ専用モデルです。ISの2ドア版のようにも思われることもあるようですが、実際にはひとクラス上のGSと共通のプラットフォームが使われていて、ボディサイズもISより一回り大きいです。RCには2500㏄のエンジン＋モーターのハイブリッド、3500㏄のV6モデル、そして、5000㏄のV8を積むRC Fのラインナップが存在します。ここでは、”F”の名を冠したパフォーマンスモデルのRC Fについて書きます。

　試乗したモデルは、オレンジのボディにカーボン製のボンネット、ルーフの黒がアクセントになった、レーシーなもの。通常のRCと比べて盛り上がったボンネットは大迫力で、その下に巨大V8エンジンが収まっていることを隠すことなく伝えてきます。無用な謙虚さから解き放たれた良い自己主張だと思います。これはIS Fのデザインでも感じられたものですが、IS Fよりもグリルやバンパーのエアインテークが大きく、さらにアグレッシブで強い主張が感じられます。後ろから見た姿もふくよかなリアフェンダーからエッジの効いたボディサイドへつながる面と固まり感が迫力がありながらきれいです。ボディサイズはIS Fよりも全長・全福がそれぞれ45mm、35mmほどおおきくなっていて、車を目の前にすると、やはり、大きく感じます。

インテリアもブラックとオレンジのただものではない雰囲気そのままですが、現行のISによく似た仕立てのいい高級感のあるものです。スイッチ類の操作感も重厚感と精緻さが感じられる、他の国産車とは一線を画したLexusならではのものです。ただ、ドイツのプレミアムカーと比べると、細かなスイッチの配置が不自然というか、個々のパーツは素晴らしいのですが、個別に自己主張していて調和がとれていない感じがします。雰囲気のいいインテリア空間なのですが、個々のスイッチやパネルが汎用既製品で後からはめこんだような印象です。実際にはそんなことはなく、専用設計なんでしょうが、そう感じてしまうのは残念です。

エンジンをかけると、膨らんだボンネットの下のV8の振動が心地よく伝わってきます。Lexusのエンジンは無音・無振動のイメージがありますが、そのあたりは”F”の名を与えられたモデルだけに、エンジンにしっかりと主役級の役割が与えられていて、その存在を全身で感じられます。走り始めてもエンジンの存在は常に感じられ、もっと踏んでみたくなります。回転を上げて行くとV8の乾いた音が社内に満ちてスポーツカーに乗っていることを感じられます。477psのパワー感は言うまでもなくパワフルで、これ以上なにを求めるのかというレベルです。今の時代では絶滅危惧種ともいえる大排気量自然吸気のV8は回転をあげるほどパワーが出てくる自然でスムーズなものです。自然というにはおそろしいほどのパワーではあるのですが。。

RC Fは、価格、ボディサイズ、パワーなど、あきらかにBMW M4、 Audi RS5がライバルですが、とくにM4とは同じ駆動方式で、エクステリアの雰囲気も似ています。これらライバルと比べるとRC Fの重量が1780kgと、なぜだか重いのが気になります。おなじFRのM4の1640kgよりも140kgも重く、4WDのRS5と30kgしか変わりません。カーボンエクステリアではない通常のRC Fだとさらに10kg重くなります。巨大なV8の重さ分があるとしても、もう少し軽くできないものでしょうか。同じプラットフォームのLexus GS350が1650kgですから、V8による重量増や補強を考慮してもLexusの象徴たるパフォーマンスクーペであれば、もう少し軽量化をがんばれないものかと思っていしまいます。とは言え、Lexusの中ではとびぬけたスポーティーモデルであることはまちがいないですし、ライバルと比べても独自の世界観があると思います。はやりのダウンサイジングなど無視して、エンジンもボディも大型化。アイドリングストップってなんですか？の独特の世界観です。いい意味で古典的なスポーツカーの価値観を今の技術で体現した車のようにも感じられます。自然吸気の巨大V8を積む高級スポーツクーペは、今後、ますます、希少になっていくでしょうから、気になれば、試しに乗ってみることをお勧めします。